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腐り果てた社会

今は崩壊の真っ只中にある。
それが文明の崩壊なのか、世界の、社会のそれか、あるいは局所的な一部分、一地域に限っての崩壊の中にあるのかはともかく、今、自分がその崩れ行く瓦礫の山の中にいるのは間違いないような気がする。願わくばもう少し生き延びたいとは思うが、さして若くもないし、状況は益々悪くなるだろうから、さてこの先どうなることか……

政治家の裏金問題だったり、芸能人のスキャンダルだったりのニュースを見ていると何かとてつもない馬鹿々々しさを感じてしまうが、この馬鹿々々しさを持ってこの社会の腐敗を知る、というのもそれはいくら何でも呑気過ぎ、能天気過ぎというものだろう。この馬鹿げた状況はもう何十年もに渡って続いている。何か今になって騒いでいる、このタイミングにこそ何か意味があるのだろうか? と疑ってしまう。
ゾンビ映画は流行るが、その映画をみてヘラヘラしている連中こそ自分の死を感じえないゾンビなのだということか。
セクハラ、パワハラ、コンプライアンス、言葉の内容を吟味する以前に、その取ってつけたような言葉の軽薄さに虫唾が走る。付け焼刃の言葉は、問題の在処を曖昧にするために使われてはいないだろうか?

令和と昭和を比較するという態度に一体何の意味があるのか。
令和なる元号はまだ五、六年ほどの時間しか内包してはおらず、つまりは今という時間の曖昧な言い換えでしかないわけだが、片や昭和という言い回しの裏には何はともあれ六十何年かの時間の厚みが含まれるわけで、そこに統一的なイメージを付与するということ自体無理な話しではないか。つまりは昭和とは? などという問い自体がそもそも間違っているわけで、そこから導かれる答えもまた信用に足るものではありえない。

今、流行りのドラマの中では、八十年代と現在の対比が主題となっているようなのだがその対比を令和と昭和の差異として語ってしまう理由がよくわからない、という以前に一九八〇年代と今という時代の間に根本的な差異があるか? 

ドラマの中で描かれる差異はほとんど違いともいえない些末なものでしかなく、この程度の差異なら五年前、十年前と比較すれば事足りるのではという疑問が拭えない。
もちろん〃あの頃〃と今には決定的な違いがあり、それは冷戦崩壊以前と以後という変化、あるいは元号ということに絡めていうなら昭和天皇の死去から生じる差異がある。
些末な差異の羅列は、決定的な差異を覆い隠し、むしろ昔と今を同質性の中に囲い込もうという見え透いた企みだ。作り手の意図は現在と過去の曖昧な和解なのだろう。
ドラマの中で今と昔を繋ぐ道具立てとしてアイドルのポスターが使われる場面があるが、その写真に写った当の本人は、最近のインタビューで、昔と同じことをやっているから今のテレビはつまらないと発言したという。差異を同質性で囲い込もうと企むドラマの作り手たちは、このアイドルの言葉をどう聞くのだろうか?

民主主義という言い草がただ虚ろに響くだけになったのも冷戦崩壊以後のことだ。
西側の、あるいはアメリカの言う民主主義というのは一体を何を指し示す言葉なのだろうか。その言葉の曖昧さは今や共産主義と変わるところはない。
彼らが目の敵にし、自らと比べ貶めるのは一応独裁体制、ということになるのか。
一党独裁、あるいは個人崇拝は悪だとされ、その点選挙制度を持つ我々は素晴らしいということなのか。
しかし日本などほとんど一党独裁だし、ロシアやイランにも一応選挙制度はあるし、アメリカだって選挙でどっちに転ぼうが別にたいした違いがあるわけでもないし、つまりは別にどこもかしこもさして変わりはないという有様なわけだ。
政治家とは選挙で選ばれたもの。当たり前だがいくら真っ当なことを言い立てても選挙で選ばれなければ誰も政治家にはなれない。
選挙に行こうと叫ぶ人たちがいる。今は正しく選挙制度が使われてはおらず、それがより良く使われるならいずれ社会は変わるとその人たちは言うのだろうか。
それに対してそもそもより良い選挙運用などあり得ないという人や、結局、多数派の暴力を招くだけだと選挙の無意味さを言う人たちもいる。ここでは選挙を疑う位置に立ちながら、数の暴力に対する批判ではなく、誰かを選び、誰かに選ばれている間は何も変わらないのだ、と言っておこう。
全体を見通すことは出来ない、という視点をそのまま固定化してしまうのではなく、そこから離れて、日々の生活を打ち直す。世界を変えることは目的ではないし、そもそも目的を持つことで見えなくなる動きに身体を開くことが大切だ。
ゴダールの遺作と呼ばれる二十分ほどの映像を見る。こんな風に最後まで〃遊び〃ながら死んでいった人なのだなとその映像の断片を見て思う。ここからいずれ作られるはずだった本編を夢想するのではなく、既にある映像の中にこの〃遊び〃の身振りを発見する。その身振りをなぞりながら、こちらもまた変化の流れに波長を合わせていく。(2024.03.11)